「北風と太陽」 師、新田邦彦氏に教わったこと

昭和、平成時代は団体展が大流行りの時代だった。大方の作品は私には見ていてとても激しく、冷たい作風に思えた。展覧会をひと回りするととても疲れたことを覚えている(まだ若いのに)。着物も例外ではなかった。

何故こんな冷たく激しい作風のものが多いのか、私には全くわからない、と師に尋ねたことがある。

 

師は、「北風と太陽や。お前は太陽の絵を描いていけ。」と言った。なんとなく分かった気がして嬉しくなって、「♫わかったわ♫」と言うと、「ただし、太陽の絵を描くことは、北風の絵を描くことより10倍も20倍もエネルギーが必要なんやぞ。」と言われて、ドキッとした。けれども、すぐに「百万馬力で北風を跳ね除けるぞー!」とエネルギーが漲ってきたことをリアルに覚えている。大前提に立ち位置が大事なのだということだ。

 

見る人を喜ばせるために自分がいるのか、自分の名利のために見る人を利用するのかということかと理解した。「作品」は偉くなるためのツールではなく、どこまで行っても人を喜ばせるためのツールなのだ。でないと楽しく作れない。

 

「(作家は)一般の人より一段高みにある」よくあるド勘違いだ。私は、高みどころか人間と動物の間ぐらいが丁度いいと思うことにしている。何故なら、師曰く「作家という人種は忙しさに追われて日々を送っているほとんどの人たちが見えないものを感じないといけないのだから。」

 

作品を作るということは、社会のあらゆる事象に対して、その作家が無意識のうちにジャッジしている価値観を晒すということに他ならない。外からは見えないその作家の内的本質が晒されるとても厳しく高知な行為なのだと常々思っている。どれだけ小賢しく立ち回ろうと、どれだけ仮面を被ろうとも、作品は絶対嘘をつかない。その作家の創作に対する真実の姿勢を晒す。言うまでもないが、技術の上手い下手ではない。ビジュアルの力を甘く見てはいけないということだ。特に作家を生業にしている者は。自戒を込めて。

 

つまずきながらも数十年が過ぎたが、自分自身が子供のように心から楽しんで作品を作れているなら大丈夫、と確信が持てるようになってきている。歳を追うごとに。

 

 

 

 

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