私は、屏風や染絵パネルの作品を作るとき、ロウちらしの技法をよく使う。ロウチラシ技法とは、下地の色を付けた布に、溶かしたロウを筆に浸け叩いてロウを散らす。その上から色をかけ乾いてからロウを落としてチラシの模様を出す染色技法である。
25年ほど前になるが、その技法を前面に出して緑と青の絶妙な色合いの杉山を表現した最大寸法の2曲屏風を作ることになった。かなり力が入っていたと思う。
いつものように、下地の色を染め、その上に丁寧にロウを散らした。飛び散るロウの粒の大きさにまで神経を使った。その上にもう一度濃い色をかける。ロウを取ると下の色のチラシ模様が現れる。とにかくロウチラシ独特のチラシ模様を鮮明に出したくて完璧に頑張った。つもりだったが、最後にロウを取ってみると、チラシ模様がボケてまるで精彩がない。綺麗な色を使っているのに綺麗じゃ無い!再度挑戦したが、やはりうまくいかない。
どれだけ考えても原因がわからない。
いくらなんでも陶芸家にはわからないだろうと思いながらも、師に電話した。
ロウチラシの技法と八方塞がりの状況を説明した。
「2、3日時間くれ」と言われ、2日後電話を頂いた。
師:「まず、下地の色は、上にかける色よりほんの少し彩度を落とした色をぬる。ロウチラシの上にかける色はそれよりほんの少し綺麗でほんの少し濃い色をかける。」
私:「そんなかったるい色ではっきりしたチラシ模様が出るはずがない!」と思いっきり反発した。
師:「まあ、騙されたと思ってワシの言う通りにやってみい」
半信半疑でやってみた。
ロウを取ると、くっきりと鮮明なチラシ模様、鮮やかな青と緑のコントラストが目に飛び込んだ。
なんで?魔法がかかったのかと思った。
師は染色をしたことがないはずなのに、何故わかったのか。前のめりで聞いた。
師:「下の色も、上の色も両方活かす。お互いに両方の良さを引き出し合う。一方を殺して一方が活きると言うことは無いやろ。世の中も一緒や」
私:「かっこい〜〜〜!!!」
師匠も私も、実生活ではこんな芸当は決してうまくやれていないのだが、、。
師匠曰く、「本当に自分の好きなことでしか、自分の弱点に気づかんもんや」
な〜るほど。